パニック障害
病気の特徴は?
1.明らかな器質性変化をもたない
2.応分の洞察力と現実検討能力を保ち病的な空想を外部の現実と取り違えることはない
3.行動の統制は保たれ反社会的な逸脱に至らない
4.人格は保たれる
などの表徴を示す精神障害に各種神経症があります。
パニック障害は、神経症圏の一亜型であり、動悸、頻脈、息苦しさ、めまいなどの自律神経失調と「死や発狂への恐怖」を伴う繰り返される過度の不安(パニック発作)を主な症状とします。
発作の合間に「また何時つらい発作が起きるのだろう」と気が休まらず(予期不安)、発作が起きた際に逃れられないような場所を怖れて1人での外出、交通公共機関の利用ができなくなる(広場恐怖)ことも、この病気の特徴とされます。
一般人口におけるパニック障害の有病率は、約2~4%であり男女比は1:2.5で女性に多く、15-19歳ころに始まることが多いとされています。
病気の原因は?
脳科学の研究が進み、脳の形態、神経伝達物質、遺伝、外傷的出来事など多面からパニック障害の病因仮説が提唱されています。
自律神経の調節部位である脳幹部、特に橋の青斑核に存在するノルアドレナリン系細胞体の働きが弱まると不安が高まりパニック発作が生じます。
脳幹部の機能異常が脳幹の上に位置し情動や本能に関係する大脳辺縁系に及ぶと予期不安が生じます。
脳幹部や大脳辺縁系の異常が持続、反復すると創造や理性に関係する、より上位の脳部位である前頭前野に影響が及び「その場から今すぐ逃げ出さないと命に関る大事になってしまう」といった誤った認知が生まれ回避行動,広場恐怖が起きると考えられています。
診断に必要な検査は?
パニック発作はさまざまな身体疾患、物質によっても誘発されることが知られています。
したがって身体的な検索を注意深く行い、一般身体疾患や誘発物質由来でないことを鑑別する必要があります。
パニック発作を誘発する身体疾患として、甲状腺機能亢進症および低下症、褐色細胞腫、前庭機能障害、側頭葉てんかん、上室性頻脈、慢性閉塞性肺疾患が、物質としては、アンフェタミン、カフェイン、コカインなどの中枢神経刺激薬、アルコ-ル、バルビツ-ルなどの中枢神経抑制薬の急激な減量や中止後、低血糖、がそれぞれ知られています。
有効な治療法は?
パニック発作を減らし、遂には無くしていくだけでは不十分であり、予期不安や回避行動をも減らし、遂には無くしていくことで生活機能を回復していく工夫が必要です。
第一に、「脳機能のバランスの乱れにより生じた病気」であることを説明し「性格異常や気のせいではない」「生命の危機はないし気が狂うこともない」「治療法はある」などの説明を行い治療関係を形成します。
第二に、脳内で生じている神経伝達物質の乱れを是正しパニック発作を消失させ、予期不安を減弱させる目的で、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬などの向精神薬を少量から開始し主効果を観察しつつ至適用量を設定していきます。
第三に、誤った学習付けの結果である回避行動の是正を目的に、呼吸調節法や自律訓練法を応用したリラクセ-ションの実践により不安に対処することができる具体的な方法を身につけていくことが推奨されます。
並行して、「誰にでも日常に生じる普通の出来事」を「危険で人生最悪の事態に遭遇している」と誤認し自ら不安を増大させてしまっている「病者特有の考え方」に気付き修正できるよう治療者がカウンセリングの場で援助を与え続けることが大切です。
強迫性障害
病気の特徴は?
強迫性障害は、神経症圏の一亜型であり
1.強迫観念(自らの意思に反して侵襲性に反復する考え、イメ-ジ、衝動)
2.強迫行為(已むに已まれぬ強い衝動によって行われる特定の目的を持った反復性の行動)のいずれか、または両方があることが表徴です。
病者は強迫観念により強い不安と苦痛を自覚し、また病者は強迫行為に意味があるわけではないことを理解しているものの実行により一時的な緊張の緩和が得られるため続けざるを得ない悪循環意に陥っていることが多いとされます。
強迫観念、強迫行為、は単独また重畳して軽度かつ挿話的には健常者に発現することがあります。
精神障害として診断に踏み込むためには、「強迫観念か強迫行為のいずれか、またはその両者が当人の苦痛の原因となっている、または当人の生活や行動を著しく妨げていること」の要件を満たす必要があります。
一般人口における強迫性障害の有病率は約2~3%であり、明確な性差はなく、思春期から青年期、おおむね25歳までに始まることが多いとされています。
病気の原因は?
強迫の動物モデルを用いた研究や神経解剖的な研究から強迫に関与する神経伝達機構や神経伝達物質が明らかにされてきています。
非選択的なセロトニン再取り込み阻害薬であるクロミプラミンは連用下に強迫症状を緩和し、症状の改善度と脳脊髄液中のセロトニン代謝物濃度に正の相関を認めたとの知見から強迫性障害が脳内セロトニンの機能異常に関連しているというセロトニン仮説が提唱されています。
また動物実験ではド-パミン系薬物投与が強迫行動類似の常同行動を惹起することから脳内ド-パミン神経伝達の亢進が強迫性障害の病態生理に関与するとの報告もあります。
診断に必要な検査は?
強迫観念、強迫行為は単に強迫性障害のみではなく、境界性パ-ソナリティ-障害を始めとするB群クラスタ-、統合失調症、気分障害、広範性発達障害、前頭側頭葉変性症などのさまざまな精神障害においても発現が認められます。
したがって初診時に観察される横断面のみの現症にとらわれることなく、家族からの情報も聴取し縦断的な病像を把握することで経過中に強迫症状を呈する他の精神障害を鑑別していく工夫が必要です。
有効な治療法は?
各種の選択的セロトニン再取り込み阻害薬、非選択的なセロトニン再取り込み阻害薬であるクロミプラミンはともに強迫症状を減らす効果が期待されます。
但し強迫性障害に対する選択的再取り込み阻害薬の効果はうつ病に対する治療効果に劣りより遅効的であることが知られています。
平均すると連用12~26週後に治療反応が認められるが多くの場合投薬前の症状を50%未満減少させるに過ぎないとされています。
リスペリドンほかのド-パミン遮断効果を持つ抗精神病薬の追加は一部の治療抵抗例に効果を示すことが報告されています。
強迫行為、強迫観念を減らし、遂には無くしていくためには薬物だけでは不十分であり、一部のケースでは認知行動療法の技法を応用することで治療効果を増強することが判明しています。
作為的に不安を誘発する刺激状況に持続的に直面させることで不安反応の減弱を体験させる「曝露法」と、強迫への衝動が経時的に減弱することを実体験させ不安を回避する方法としてはその場限りの効果しか持たない強迫行為を手放させる「反応妨害法」を組み合わせた曝露反応妨害法の実施が推奨されています。
1.強迫行為を行いたい特定の状況があるのか、さらに不安や強迫観念の有無と強度を日記の形で記録する
2.強迫行為をしたくなる状況を強度順に並べる階層表を作る
3.行動分析で明らかとなった強迫行為をしたくなる状況を意図的に作り(曝露)、敢えて強迫行為をせずに場を離れる(反応妨害)課題の実践により、強迫行為をせずに時間の経過とともに衝動や不安が軽減することを経験
の3段階により治療を進めていきます。